インタビュー

鏡視下手術のトレーニングプログラムで、積極的に若手外科医の育成を進める。

聖路加国際病院 消化器一般外科
鈴木 研裕 先生

安全な鏡視下手術の普及に向けて

鏡視下手術は切開創が小さく患者さんへの負担が少ない手術として知られ、近年、鏡視下手術を行う医療機関は増えつつあります。その一方で、開腹手術のように直接臓器に触れながら手術を行うことができず、また特殊な医療機器を扱うこともあり執刀する外科医には高度な技術が求められます。そのため習得には指導医の下で十分な経験を積む必要があり、鏡視下手術を行える技量を持つ外科医は多いとは言えないのが現状です。

胸腹部手術の半数以上が内視鏡手術となっている聖路加国際病院では、このような状況に応えるべく、2015年 4月から研修医を対象とした「鏡視下手術トレーニングプログラム」(年 6 回)を開始し、鏡視下手術を行える外科医の育成・評価・認定に向けて大きな一歩を踏み出しました。

ドライラボにおける初期研修医向けのプログラム

「鏡視下トレーニングプロラム」は、鏡視下手術を行う術者の育成と、さらなる安全性の追求を目的に作成され、その対象は全ての初期研修医で、ACS (American College of Surgeons)が実施しているFLS (Fundamentals of Laparoscopic Surgery)を参考に、日本国内の実情を加味して作成されています。

FLS の手技ビデオはこちらでご覧いただけます。(http://youtu.bu/ROUGZ79Paxk 新規タブで開きます

初期研修医に課せられたプログラムは、基本的な知識の習得と鏡視下手術特有の手技について、ラパロトレーナーとシミュレーション機器を用いながら実施します。

その際に、それぞれの項目については制限時間が設けられ、時間内に行うことができないと、聖路加国際病院では助手として手術に参加することはできません。

FLS では、これら①から⑤までの手技に習熟するため平均 10 時間ほどの練習時間を要すると報告していますが、聖路加国際病院ではほとんどの医師が 10 時間以内で手技に習熟します。またトレーニングでは必要に応じて応用編を追加することもあり、鼠径ヘルニア手術がそれに該当します。

聖路加国際病院では年間 100 件以上の鼠径ヘルニア手術が行われていますが、鼠径ヘルニアを鏡視下で手術するためには、通常のトレーニングで行われるような見下ろしながらの操作ではなく、正面の壁に向かって操作を行うため、①から⑤までの手術で必要とされる手技とは異なった技術が要求されます。したがって、すでに鏡視下手術を経験したことのある医師を対象に、特殊なトレーニングを行っています。

初期研修医による鏡視下手術のトレーニング風景

コメディカルを含めたスキルの普及を目指して

鏡視下手術の教育制度は、将来的には学会が主導する形で普及していくことになると思いますが、今はまだ大学や基幹病院などが独自のプログラムを作成して執り行っているのが現状です。聖路加国際病院もその中の一つとして、各医療機関と連携を進めながら、より侵襲の少ない安全な手術の実現に貢献していく予定です。また 2017 年の春に完成が予定されている聖路加臨床学術センター内に設置されるシミュレーションセンターは、シミュレーションラボを設けた施設となる予定なので、鏡視下手術についてのスキルを医師だけでなく看護師などのコメディカルスタッフに広げていくことができると思います。また模擬手術室を使用した緊急時の実体験なども実施する予定で、鏡視下手術の訓練同様、実践的なトレーニングプログラムを展開していけるものと期待しています。

~研修中の先生方の声~

Q1 プログラム化されたトレーニングの重要性について

① 消化器一般外科 鈴木 研裕先生

鏡視下手術について研修医が執刀する機会が少ないと、外科医として育っていく機会の喪失や、モチベーションの低下を招くことがあります。しかし、鏡視下手術はある程度の経験だけですぐに行えるようになる手術ではなく、それ相応の経験と技術の確立が求められます。そこで前もって効果的にスキルを学んでおくことができれば、鏡視下手術の実施がよりスムーズに行われるようになり、より多くの医師が鏡視下手術に取り組むようになると考えました。また、病院としても一定の教育システムをパスした医師が行っていることを情報開示することで、患者さんやご家族から信頼感を得ることができるのではと考えました。

② プログラムに参加している初期研修医

プログラム化されたトレーニングは、難易度の高い鏡視下手術に取り組むのに当たり、技術的向上やモチベーション向上という面で非常に有意義だと感じています。医療者にとって手術経験は技術的向上に不可欠ですが、一方で患者さんにとってみれば、その1回の手術が非常に重要なわけで、これらを両立させていくのは簡単ではありません。そのような点から、患者さんに必要以上の負担をかけることなく技術の向上を図れる有用なトレーニングだと思います。

Q2 外科医を目指す研修医や学生さんに向けて

消化器一般外科 鈴木 研裕先生

患者さんの生命をお預かりする手術は、我々にとって大きなストレスになりますし、最初の手術であると不安やストレスはさらに大きくなります。しかし、手術を通して病気が改善し退院していく患者さんもたくさんいらっしゃって、そんな患者さんからかけられる感謝の言葉は「外科医冥利に尽きる」と言っても過言ではありません。また今回のプログラムのように、著しく進歩する医療技術に対する教育制度の整備によって外科医が被るリスクも年々減ってきていますので、新しい時代に向け外科を目指す医師がもっと増えてくれることを望んでいます。

聖路加国際病院 消化器一般外科
鈴木 研裕 先生

主な学歴・職歴

2003年3月信州大学医学部医学科 卒業
2003年4月聖路加国際病院 初期研修医(外科系)
2005年4月聖路加国際病院 後期研修医(消化器・一般外科)
2008年7月聖路加国際病院 消化器・一般外科 チーフレジデント
2009年11月テキサス大学 MD アンダーソンがんセンター 消化器腫瘍科フェロー
2012年7月聖路加国際病院 消化器・一般外科 医員(現職)

専門医資格

2009年12月日本外科学会 外科専門医
2013年1月日本消化器外科学会 消化器外科専門医
2013年1月日本消化器外科学会 消化器がん外科治療認定医
2013年4月日本がん治療認定医機構 がん治療認定医